乳がんのように「しこり」で発見される乳腺疾患
しこりができる乳腺疾患には、乳がん以外にもさまざまなものがあります。乳房のしこりを検査した場合、1~2割が乳がんと診断され、8~9割はそれ以外の乳腺疾患と診断されます。しこりが良性か悪性かは専門外来による検査で調べてみるまでわかりません。それぞれの疾患によるしこりの特徴には傾向こそありますが、例外も多いため自己判断するのは危険です。しこりをはじめとする乳房の変化に気付いたら、乳腺クリニックを受診してください。
乳腺症
乳腺症は授乳の役割を終えたり、または女性ホルモンのバランスが変わったりすることで、乳腺細胞が異常に増生・退化・変化を起こしている状態です。乳腺の退縮がはじまる30~40代の発症が多いとされています。しこりの感触はゴツゴツとしていて境界があいまいなことが多く、乳房の張りや痛みを起こす場合は月経サイクルによる増減が起こりやすいとされていて、一定期間にだけ痛みなどを起こすこともあります。
乳がんとの鑑別が難しいため、必ず乳腺専門医を受診してください。当院では、マンモグラフィや超音波検査などを行って専門医が診断し、鑑別が難しいケースでは穿刺吸引細胞診や組織診断を行って確定診断しています。
乳腺線維腺腫
マンモグラフィや超音波検査では乳がんとの鑑別が難しいことがありますが、穿刺吸引細胞診により確定診断が可能です。発症は10~30代と比較的若い世代に多く、ほとんどがん化することがない良性腫瘍ですから、しこりが小さい場合には治療をせずに経過観察します。しこりの大きさは小豆から鶏卵程度までで、触れると動き、クリクリした感触で境界がはっきりしていることが多くなっています。ただし乳がんでも同様のしこりができることがありますので、こうしたしこりを発見したらできるだけ早く乳腺専門医を受診してください。なお、しこりが大きい場合や、急激に大きくなる場合には摘出手術が必要になります。
乳腺炎
主に授乳期に起こる炎症性の乳腺疾患です。母乳を乳頭まで運ぶ乳管が詰まったり、乳腺が細菌に感染して炎症を起こしている状態です。主な症状は、乳房の腫れ、赤み、熱感、痛み、しこり、発熱、倦怠感などで、細菌感染によるものでは強い痛みや高熱といった症状を起こすことがあります。抗生物質による治療を行いますが、強い症状がある場合には切開して排膿する必要が生じることもあります。
ご注意いただきたいのは、授乳期以外にこうした症状があるケースで、その場合は炎症性乳がんも疑われますので、速やかに乳腺外来を受診してください。
乳輪下膿瘍
乳腺炎が悪化したり、乳腺炎とは関係なく乳頭から細菌が侵入して乳輪下に膿がたまる病気です。乳腺炎と同様の症状を認め、自然軽快は期待できないので速やかに乳腺外来を受診してください。
乳管内乳頭腫
母乳の通り道である乳管に生じるポリープの様なものです。乳頭周辺にできるケースが多く、30代後半から50代の発症が多いとされています。主な症状である乳頭からの分泌液は乳がんでも起こることがあるため、早めの受診が必要です。腫瘍が大きくなるとしこりとして感じることがあります。手術によって乳頭種のある乳管を切除することで、分泌液やしこりといった症状は解消できます。
乳腺のう胞
のう胞は袋状の組織で、乳腺のう胞では乳腺にできたのう胞に分泌液がたまります。こののう胞は、しこりとして感じられることがあります。閉経で女性ホルモン分泌が減少することで自然に消えることもあります。超音波検査で鑑別できるケースも多いのですが、鑑別が難しい場合には針生検などにより確定診断できます。のう胞が巨大化して乳房の整容性が損なわれている場合や、圧迫による痛みを起こしている場合には、治療を検討します。
葉状腫瘍
良性・悪性・境界病変があって、混在することもあります。画像検査だけでなく針生検の組織検査でも確定診断できないケースがあります。良性でも増殖が比較的早く急速に巨大化することもあり、葉状腫瘍と疑われる場合には切除手術が不可欠です。切除後には再発の可能性がありますので、定期的な経過観察も必要になります。
また悪性の場合は転移することもあります。
乳腺石灰化
石灰化はカルシウムなどが沈着している状態で、乳腺の石灰化は血液や母乳によって起こりますが、乳がんのがん細胞が壊死してできることもあります。特に乳がんのがん細胞が壊死してできた石灰化は、乳がん早期発見のきっかけとなるしこりよりも早い段階で現れるため、超早期発見につながる可能性が高いとされています。乳がんを超早期発見した場合、乳房を温存する治療を安心して受けることができます。石灰化発見にはマンモグラフィが適しているため、早期発見のための乳がん検診にはマンモグラフィが不可欠なのです。
マンモグラフィでは、石灰化の形状、大きさ、分布などから乳がんの可能性があるかどうかを判断します。最終的にマンモグラフィー下(ステレオガイド下)組織生検により確定診断します。悪性かどうかの判断が難しい場合はとりあえず経過観察して、半年後に再度のマンモグラフィを行うフォローアップが選択されるケースもあります。